振込が出来ない国に暮らす。メインフレームのお話


「振込が出来ない」

アフリカかどこかアジアの小国で起こったことではない。

日本で発生したことだ。

 

もう随分前の話なので、カビが生えた経験ではあるが、20代の頃、ネット企業で営業の仕事をしていた。

28歳で外資系生保に移る直前の2,3年は某メガバンクグループを担当しており、銀行本体、そしてカード、リースなどの膨大な子会社群のシステムを垣間見る機会を得る。

私が勤めていた企業は当時の「最先端企業」であり、現代にも続く「インターネット」をベースとしたネットワーク、システム構築を得意としていた。

一方、金融機関のシステムは「メインフレーム(ホストコンピュータとも言う)」と呼ばれるものが中心。

職務上の「役得」で、超厳重警備の金融機関のデータセンタにも入れて貰い、これらのメインフレームの実物を見たことがあるが、とにかくデカい(物理的に)

「メインフレームはデータセンタの奥深くに祀られる『神』、エンジニアはそれに仕える『神官』」

センタの方がそのように言っていたが、まさに言い得て妙。

ネット系で育った私からすれば、神と言うより妖怪的なものを見たような印象だった。

またこれらのメインフレームを操るための言語もCOBOLという特殊なもので、当時ですらこれを使える人は「おじさん(おそらく40代、50代)」しかいなかった。

が、この神々はまだまだ死んでいない。それどころかバリバリの現役で今でも社会インフラを支配している。

「振込不可」という全体未聞のトラブルを起こした全銀ネットもそうだし、クレジットカードの決済プラットフォームであるCAFISの中心もメインフレームだ。(どちらもNTTデータが運用)

つまり古いのだ。

古いシステムを何とかツギハギして使っているので、今回のようなトラブルが起こるし、システム全体が複雑になり過ぎているので原因究明も容易ではない。

また、オープン化の波でメインフレーム系の言語は「どうせ終わる」と思われていたスキルであったため、若い人が学ばなず、決定的に技術者が足りない。

今回の全銀ネットのトラブルも遠因はこれだろう。

要は面倒を見れる人がいないのだ。

だったらメインフレームをやめれば良いではないか?

誰でもそう思う。

もちろん、私がIT業界にいたころから「メインフレームのオープン化への移行」はテーマではあった。

だがこれが一筋縄ではいかない。

メインフレームの方が「強い」業務も沢山あり、何でもかんでもやれば良いというわけでもないのだ。

実際、こんなことがあった。

外資系生保の移ってからほどなく、システムの大刷新があった。

契約管理のシステムをメインフレーム系からオープン系に移行するため、と説明された(この点、外資系はこのような情報もオープン)

だが新システム。まあ使いにくい。

これはメイン、オープンというより単にインターフェイスの問題なのだが、ただ反応速度は明らかに落ちたので、おそらくメインフレーム系の方が得意な仕事だったのだろう。(その後、改善されたが)

とにかく現場からは大不評で、パソコン画面にブチ切れている人が大勢いた。

変化を最も嫌うのは現場

これも現実だ。

外資系であれば、それらの文句は「本国の指示」という免罪符で封じられるが、銀行とかクレジットカードとか、とにかく古臭い業界では現場の意見も強い。

そうなると「怖くて変えられないよ・・・・」ということになるのだろう。

しかし、それもいい加減限界に来ている。

国内のメインフレームの雄である富士通が2030年に事業から撤退するからだ。

ちなみに今回の全銀ネットのメインフレームも富士通製。

もう待ったなしで移行しなくてはいけない(既に次期全銀ネットはオープン基盤になることが決定している)

だが、常に新しいものには拒否反応が付きまとい(特に日本)、前述の私のように「使いにく!!」ということは頻発するだろう。

それでも大目に見てやろうではないか。

システムというのは、自宅の家具の配置のようなもので、ちょっと変えただけでも違和感があるが、そのうち慣れる。

振込が出来ないような国に暮らすよりはマシだろうから。

本日のコラムでした。

 

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10月 12th, 2023 by