生保レディー19億円着服 「10年間ばれなかった」裏側を探る


超弩級の不祥事だ。

第一生命の生保レディーがおこした巨額詐欺事件。

何とその額、19億円。

被害者は21名とのことなので、おおよそ1人1億円という感じだろう。

80代のその女性は第一生命でも「超」が付くほどのベテランで、聞くところによると社内でも成績優秀者として表彰されるような営業だったらしい。

ざっと見た情報から推測するに、今回の手口、恐らくは以下のようなものだ。
(各数字はただの想像)

生保レディーの説明

「上得意にしかご紹介しない運用プランがあります。」

「一口5,000万円以上で、年2~3%の元本保証です。」

「会社が大口のお客様だけに限定して運用する商品で、毎年、全国でもトップレベルの生保レディー数人を通して、30口しかご案内していません。」

「私もなんとか3口ほど確保出来ましたので、この枠を是非◯◯さんに、と思いまして」

「会社の口座に振り込んで頂いても結構ですが、それをすると税務署に送金の事実を把握されてしまいます。」

「宜しければ、私が現金でお預かりし、運用の利益は必要な時に現金でお持ちしましょうか?そうすれば税金がかかりません。」

「長いお付き合いなので、ご信頼頂いていると思うのですが、高額なので、預かり証をお書きます。」

多分、こんな感じだろう。

やり方としては古典的で、どこの保険会社でも似たようなことが起こっている。(流石に19億円ははじめて聞いたが・・・)

しかし、この手の「ネコババ」は、だいたいは借金を抱えた営業マンが場当たり的な衝動で悪事に手を染めることが多く、そのため、すぐにボロが出て短期間で露呈する。

しかし、今回の事件は10年間も発覚しなかったそうだ。

過去に色々な事例を見聞きしたが、今回の件、これだけ長期間バレなかった理由は3つある。

一つづつ解説していきたい。

1 一時払だけに絞っている




保険料の払い方には、大きく分けて分割と一時払がある。

分割は月払、年払など。一時払はその名の通り、一回払ったらそれで終わり。

保険料をネコババしようとした場合、月払や年払はバレやすい。

頻繁に保険会社との金銭的なやり取りが発生するので、それらをすべて偽装するのが難しいのである。

しかし、それが分かっていても、昔はこの月払保険料のネコババが絶えなかった。

と言うのも2007年ごろまでは、初回保険料を「現金で受け取る」という風習があったから。

金に困った営業マンが、後先考えずにこれに手を付けてしまうのである。

申込書と初回保険料を預かるが、申込書は破棄し、保険料だけを懐に入れる。

しかし、月払の場合、毎月、年払は、年に一回保険料の支払いがある。

このような時、ネコババした営業マンは

「登録印が違ったようで、口座振替用紙が戻ってきてしまったので、振替が出来ない」

などと言って、毎月保険料を取りにきたり、架空口座を作って、そこへの送金を誘導したりするのだが、まあ、誰かしらが「おかしい」と気づく。

なので短期でバレるのである。

そもそも月払の保険料は、1~5万円くらいのことが多く、それに手を出しているのだから、とても冷静な状態ではないのだろう。

その点、一時払は一度払えば終わりで、その後、保険会社との金銭的なやり取りはない。

契約者からしても、保険会社に長期で預けた感覚なので、途中で何かを言うこともなく、そのため、それをネコババしてもバレにくいのである。

この生保レディーもそのことを熟知し、月払、年払はスルーし、一時払だけを狙ったものと思われる。

誠にずる賢い。

 

2 少数の資産家だけをターゲットにしている




今回の被害者は19人と少ない。

恐らくは全員が資産家だろう。

そして資産家というのは鷹揚な人が多い。

お金があるので、

1億円くらいどこにあるか忘れてしまった。

というような人も結構いる。

もちろん、お金持ちならではのシビアな人もいるが、恐らくそのような人は除外して、穏やかな人だけにターゲットを絞っていたのだろう。

10年間も発覚しなかったことは、被害者の人の良さを利用された面が大きい。

またお金欲しさに、あちらこちらを騙して、裾野を広げればそれだけ発覚する確率も上がる。

ことがバレないように少数に絞って、重点的にフォローしていたのだろう。

 

3 そこまで魅力的な商品ではない

これは私の想像だが、今回、この生保レディーが提案した架空商品の利回りは、さほどに条件が良いものではない。そう思う。

多分、前述したように「利回り2~3%確定の元本保証」程度のものではないか?
(これすら今の保険業界の状況ではあり得ないが・・・)

これが一番上手い。

実は先の1と2、「一時払だけ」、「資産家だけ」というのは、保険業界にいる人間が「詐欺をやろう」と思えば、誰でも考えが及ぶ。

そのため、実際には存在しない「高利回り商品」を謳って、保険会社の人間が資産家から一時払保険料を騙し取ったという事件は、どこの保険会社でも発生しているのだが、この時にどの詐欺営業マンも「高利回りすぎる」商品を出してしまうのである。

そもそも始めから「騙そう」と思っているわけだから、商品の中身などどうでも良いわけで、出来るだけハッタリが効いている方が良い。

そのため数字を盛る。

10年で倍(200%)

年利10%

など、通常の保険商品ではあり得ない商品を「創造」し、提案書などを偽造する。

過去にそれら提案書の写真を見たことがあるが、その中にはフォトショップを駆使した力作もあり、保険会社の本物と瓜二つというものもあった。(ちなみにその「商品」の10年後の返戻率は300%を超えていて、本当にあるなら私が入りたい。)

要は好条件を提示し、なるべく簡単に大きなお金を出してもらおうとするのである。

が、これが命取りになる。

怖いのは口コミ。




資産家は資産家と付き合う。

良い金融商品の情報は口コミであっという間に広がる。

Aさんから、Bさんへ、そしてCさんへ。

この中で仮にCさんが、この詐欺営業マンが勤務している保険会社と付き合いがあったとする。

「そんな良い商品なら俺も入りたい」

そう思って、自分の担当に連絡。

しかし、担当も「????」である。そんな商品ないのだから。

そこで悪事がバレる。

実際にこれで明るみになった事例もある。

「良すぎる」ことが仇になるのである。

今回の事件が発生したのは山口県の周南市。

田舎だから、世間も狭いだろう。

破格の好条件、しかも天下の第一生命が出しているとなれば、金利に餓えた老人の間で噂はどんどん広まる。

しかしながら、10年間も保険関係者の耳に入らなかったことを思うに、人に言うほどのものでもない「まあまあの条件」だったのではないか。

その点、あり得ないほどの高利回りを餌に釣ったわけではなく、

◯◯さん(生保レディー)が言うなら一口乗るよ

というように、それまでの人間関係と営業力を評価された正当なセールスだったとも言えなくもない。もちろん中身は真っ黒だが・・・

以上、今回の巨額詐欺事件の裏側を解説した。

 

最後に・・・

80代まで現役だった生保レディー。

そこまで長く続けれて来られたということは、多くのファンを持つ優秀な方だったのだろう。

しかし、そんな人物像に何とも不似合いな19億円の着服。

80代のおばあちゃんが持つにはあまりに巨額。

人生の最終コーナーで、長年のお客様を裏切ってまで手に入れたかったものは一体何だったのか?

同じ業界にいる若輩者としては、何とも切なさを感じるニュースである。

本日のコラムでした。




 

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10月 3rd, 2020 by