保険金の受取人が複数いても「たった一人」にしか払わない謎


先日、旧知の税理士先生から、

「X生命の保険で、親が死亡した場合、子2人に50%ずつ保険金を渡すという契約をしていたのだが、死亡後、一人の子に100%全額を支払っているようだ。そんなことがあるのか?」

という質問を頂いた。



保険金の受取人は「複数人を指定する」ということが出来る。

例えば死亡時に1,000万円の保険金がある契約において、受取人欄に

子Aに50%(500万円)
子Bに50%(500万円)

と記載することで、受取り分を明確にするのである。

このような場合、普通に考えれば

「保険会社はA、B、それぞれに500万円づつ払う」

と思うかもしれない。

しかし、実際には、子Aか、子Bのどちらかに1,000万円をまとめて支払っている。

つまり、先の質問の回答としては

「そんなことが『ある』、と言うかほとんどの保険会社がそうしている」

ということになる。

 

もちろん、保険会社がAもしくはBに恣意的に支払っているわけではない。

複数受取の契約では、保険金支払時に、

・「A(もしくはB)に保険金をまとめて支払うという承諾書」に

・承諾した旨のA、B双方の実印

・及び、A、B双方の印鑑証明書

の提出が必要となるので、A、B双方の同意を得て「まとめて」支払うのである。
注:保険会社によっても手続きは多少異なる

逆に言えば、自分にどれほどの権利(この場合50%)があるかという点について、関係者全員が知った上で、更には代表者がまとめて受け取ることに承認しないと、保険金は支払われない。

冒頭の税理士先生も

「何でそんな面倒なことを・・・個々に払えば良いではないか?」

と言っていたが、これには理由がある。

単純な話・・・

保険会社がトラブルに巻き込まれたくないから



仮に保険会社が個々に保険金を支払ってしまうと、ちょっと考えただけでも以下のようなことが想定出来る。

・親が遺した保険金が1,000万円だと思っていたAから「何で500万円なんだ!!」とクレーム

・「残り500万円は誰が受け取ったんだ!!」と言われても個人情報でもあるので、答えられない

・A、Bの兄弟姉妹間が悪かったりするとより厄介

・別々に支払った後に「保険会社X社の保険金は全額Aに」と記載された遺言書が発見。法律上、保険契約の受取人より、遺言書で指定された受取人の方が強いので、「何で勝手にBに500万円払ってんだよ!!」と大クレーム。

等々・・・・

そのため、保険会社としては

「まず身内で『交通整理』してから、『一括』で請求して下さい」

という取り決めにしているのだろう。

だが、これが別の問題を発生させる。

先程のA,Bの例であれば、兄弟姉妹間の仲が悪いような場合が大変。

まず、受取割合において

「俺が親の面倒を見てきたのに、何であいつと半々なんだ!!」

というような異論が出るかもしれないし、誰が代表して受け取るか、という点についても

「お前は、絶対こちらに払わない、俺が受け取る!!」

「いや、お前こそネコババするつもりだろ!!」

と双方が疑心暗鬼になって、話がまとまらないことも想定される。

実際の例でも、受取割合が2:8のようになっている契約で、

「何で俺が2であいつが8なんだ!!自分が貰えなくても絶対承諾しないぞ!!」

となって、いつまでたっても手続きが進まず、長期間、保険金が支払えないようなこともある。



しかし、これらのことは故人(契約者)の意思を尊重しているのだろうか?

兄弟姉妹間の関係が悪いことくらい、親なら分かる。

「死んだ後、子どもたちが保険金で揉めないように、あらかじめ割合を決めておこう」

そう思って、受取人を複数に指定していたはずが、蓋を開けてみれば大揉め。

これでは故人も浮かばれない。

しかし、これ、簡単な解決策がある。

「初めから契約を割っておく」だけ。

当初から受取人をA、Bにした500万円の保険を2つ契約しておけば、契約自体が別々なので、A、Bそれぞれに保険金を払う。

話を聞いてみれば「なんだ」という程度のことなのだが、しかし、このような「処置」をせず、冒頭の話のように受取人が複数いる「1つの契約」は世の中に沢山ある。

何故か?

それは・・・

保険を売っている営業マン自身が支払い手続きを知らないから

当の営業本人が「別々に払うはず」と思い込んでいることもあれば、そんなこと「考えたこともない」という人も多い。

要は保険会社の教育不足。

それによって、本来、解決策となるべき保険が無用のトラブルを招いているのであれば、何ともお粗末な話である。

本日のコラムでした。

 

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7月 14th, 2021 by