「2年話法」というダークサイドに落ちたかんぽ


2000年代中盤。

私がこの世界に入って間もない頃、ちょうどスターウォーズ エピソードⅢ(今のシリーズの前シリーズ)が公開されていて、それに例えて、ある先輩がこんなことを言っていた。

セールスには正しい道と、悪い道がある。

スターウォーズで言えば、ライトサイドとダークサイドだ。

特に目に見えない商品である生命保険は売る側の言葉と倫理観が全てだ。

逆に、こちらが悪いことをしようと思えば何でも出来る。

セールスの暗黒面(ダークサイド)に落ちたら、後は破滅だけだ。

と。

当時はピンと来なかったが、今はその意味が良く分かる。



さて、かんぽ生命。

今年6月に不正販売が発覚してから半年。

先日、外部の弁護士3人をトップとする調査委員会のレポートが発表された。

内容を見たところでは

セールスの暗黒面に落ちたな・・・

そう表現するしかない。

150ページにわたり、不適切販売の実状と、その温床となった社内事情を赤裸々に報告している。

まず、9月の中間報告時点では6,327件とされた不適切販売は1万2,836件に「倍増」

不適切販売を行っていた募集人(営業)は5,797人。

募集人はかんぽ全体で9万人いるので、約6.4%が不適切販売に関与していたことになる。

なお、社内の評価制度で「成績優秀」とされていた募集人に限れば、そのうちの26%が不適切販売を行っているので、つまりは、

「優秀」とされていた募集人ほど不正への関与率が高い

ということになる。



一方、被害者側。

まず年齢で言うと、

50代 1,023人(16.7%)
60代 1,978人(32.3%)
70代 1,793人(29.3%)
80代 627人(10.2%)
90代 8人(0.1%)

と50代以上で88.5%を占める。

男女比は女性85%、男性15%と圧倒的に女性が多く、

「人の良い女性高齢者」

が食い物にされていた。

また、レポートの中ではその手口の一例として、

2年話法

というものが紹介されている。

具体的にはこんな流れ。

70歳の契約者に、保険期間20年の養老保険を提案する。

養老保険は、貯蓄型の保険で、20年間支払って満期を迎えると、総支払保険料に「ちょっとだけプラスされた満期金」が返ってくる。

しかし、契約者には20年間支払うことは言わずに、

「2年で満期。2年払えば終わり」

と虚偽の説明を行う。

その際、

「たった2年だけだから、これくらいなら貯金から払えるでしょ?」

と言って、高い保険料をふっかける。

ここでは月10万円としよう。

本来であれば、月10万円、年間120万円を「20年間」支払うのだから、総額2,400万円。

先ほど説明した通り満期金は「ちょっと増える」ので、ここでは満期金を2,500万円としよう。

保険の契約としては、

保険種別:養老保険
保険期間  20年
支払期間  20年
死亡保険金 2,500万円
満期金      2,500万円

となる。

これだけの大型契約を預かれば、社内的には評価が高い。

しかし、契約者はあくまで「毎月10万、2年間」だと思っている。

そして2年後。

「もっと良い商品が出たので、満期金をそちらに移し替えましょう」

とささやく。

ここまでの支払いは240万円(10万円×12か月×2年)

対して養老を2年で解約した場合の返戻率は80%前後なので、解約返戻金は190万円程度に減っている。

つまり、50万円損をしていること。

ただ、190万円はまた違う商品に再投資されるため、かんぽを完全に信用している契約者は

「きっとその方が良いのだろう」

と疑わない。

そして、そうこうしているうちに契約者が亡くなれば「御の字」で、保険金を支払えば、遺族は感謝し、事はうやむやになってしまう。



また、かんぽの社内ルールで

「2年以内の解約は販売報酬の一部を返金」

というものがあり、つまりは、2年を超えれば一度受け取った報酬を返さなくても良いので、顧客に

2年間だけ

という縛りを付ける。

これが「2年話法」とよばれ、募集人の間で広く流布されていた。

・見せかけの高い保険料

・2年ごとに商品を切り替えさせ、その都度発生する「新規契約」

・報酬返金をすり抜けるための2年間

全ては募集人のためだけの事情が優先され、契約者にはデメリットしかない。

もちろんこんな矛盾だらけの不正トーク、気付く人は気付く。

そしてクレームとなるのだが、外部調査委員会のレポートによると、

「契約者からクレームが入っても、募集人が『きちんと説明しました』と言えば、それ以上は追及出来ない社風だった。内部監査も機能不全に陥っていた。」

とのこと。

商談のスタートから最後まで全部ウソ

THE・暗黒面。

不正に与した人数は5,797人は、全体の6.4%とは言え、これは中規模の保険会社の募集人より多い。

それらが全国で詐欺まがいの集金を行っていたのだ。そして管理部門も見て見ぬふり。

マルチ商法で逮捕される悪徳企業と何が違うのか?と思ってしまう。

更に驚くべきことに、この5,797人のほとんどは、

募集人資格3ヶ月~半年凍結

程度の処分で終わる。

普通の保険会社なら懲戒解雇ものだが、かんぽの募集人は「販売を委託」している郵便局の職員でもあり、未だに準公務員扱い。なかなかクビを切れないそうだ。

自浄作用もない上、強制退出もさせられない。

「堂々とウソをつく」という暗黒面に落ちた人間を6,000人近くも抱え、どうやって再建するというのだろう?

せめて、そのような職員には

「私はダークサイドですよ」

という証として、郵便局の制服の代わりに白いストームトルーパーでも着せて欲しい。

こんな風体、お年寄りはまず、近寄らないだろう。

本日のコラムでした。(上記は私の私物)



 

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12月 24th, 2019 by