ようやく終わった・・・
それが率直な感想だ。
話は2018年の年の瀬に遡る。
年末の家族旅行で東北を巡っていた時、お客様のAさんから連絡を頂いた。
Aさんはその1年前に自動車事故の被害にあっていて、停車中の自身の車に後方から突っ込まれる、いわゆる「カマ掘り事故」というやつ。
当然ながらAさんに落ち度はない。
幸い怪我はなかったが、自動車は大きく損壊。
このような場合、責任割合は10:0で、修理費用は全額、加害者が負担する。
車を運転していたのは20代のB氏。
その場では「自分の保険を使うので、保険会社から連絡が入るはず」と説明していたが、待てど暮らせど音沙汰がない。
業を煮やして連絡すると、実は・・・
無保険だった
とB氏が告白した。
事故当時、B氏の車には妻と子供も同乗していて、所帯を持つ身でありながら無保険で車を運転していたというのだから、その無責任さに呆れるしかない。
Aさんに対し、B氏は
「保険には入っていないが、ちゃんと払う。」
そう約束したが、その後もなしのつぶて。
修理費用90万円はひとまずAさんが負担していたが、何度催促しても支払いに応じようとはしない。
無保険車の事故には良くある話だ。
普通なら泣き寝入りするところだが、怒りに燃えるAさんは、弁護士に頼ることなく自身で民事訴訟をおこし、見事90万円の賠償命令を勝ち取る。
B氏も、一歩も引かないAさんの姿勢に観念した様子。
しかし保険にすら入っていない身。
一度に100万円など支払えるはずもない。
Aさんも仕方なく、
「毎月4.5万円 20回払い」
という条件で和解した。
が、その後、数回入金されただけで、残債55万円のところで返済が滞り、再び連絡が取れなくなる。
こうなると被害者側は辛い。
既に裁判で勝っているので、差し押さえなども可能だが、流石にこの手続きは素人には無理で、法律の専門家に頼むしかない。
そうなると20万円程度のコストがかかる上、そもそも55万円分の「差し押さえられる資産」があるかどうかも怪しい。
結局、費用をかけても、骨折り損になるリスクが高いのである。
「何故、被害を受けた私がこんな思いをしないといけないのか?」
そう悔しそうに言うAさんに心から同情したが、率直に言って回収は難しいだろう。
事情を聞くと、
・B氏の電話は鳴るものの、絶対に電話には出ない。ショートメールも全て無視
・事故当時、現場に駆けつけ「しっかりと責任はとらせる」と言っていたB氏の父親も一切、電話に出ず
・この父親は建築関連の個人事情主で、B氏はそこの従業員
・B氏の見た目は元ヤンそのもの(補足情報として)
とのこと。
要は性質の悪い親子が揃って逃げ回っている状態だ。
Aさんは前職の外資系生保にいた頃からのお客様で、独立してからも支援して頂いた恩人。
ここで一肌脱がなければ男がすたる。そう思い、こう申し出た。
「お約束は出来ませんが、まずは私に預けて頂けませんか?電話が繋がるなら、知らない番号からかければ出るかもしれません。」
Aさんは「そんな迷惑はかけられない」と固辞されたが、とは言え、打つ手はない。
ダメ元で、半ば強引に一任頂いた。
が、さて、どうするか?というところ。
仮に電話が繋がり、払え!!と言ったところで、また無視されるのが関の山。
何か交渉カードが必要だ。
しかし、色々調べてみると、相手方にも弱みがあった。
建設業界の人間に聞くと、
「無保険車で仕事を請けているのはコンプラ上、相当マズい。」
とのこと。
実際、国交省にもこのような問題業者を通報するためのセンターがあり、そこで問題視されれば、元請けなどにも通知される。
このまま逃げ回るのであれば、給与の差し押さえや、役所への通報を含め、こちらにも考えがある。とでも言うしかないだろう。
品のないやり方だが、綺麗な方法では物事は進まない。
なお、このような話は若いB氏に話すより、父親の方が良いだろうと思い、まずは父親に連絡をする。
やはり知らない番号だったからか、あっさり電話に出た。
正直、亀田三兄弟のオヤジのような人が出てきて、怒鳴られるだけかと思ったが、意外にも理知的な方で、私の話に耳を傾ける。
あくまで冷静にこちらの考えを伝えると、何となく「これは払わないとヤバいな」という空気だけは感じて頂けたようで、
「責任をもって息子から連絡させる。」
との約束を得た。
そして後日、B氏本人から連絡が入る。
こちらも「元ヤン」と聞いていたので、「関係ねぇーんだよ!!テメェ」などと噛みついてくるかと少々楽しみにしていたのだが、拍子抜けするくらい大人しく、
「支払うつもりはあったが、生活が苦しくて先延ばしにしていた。」
とのことことだった。
聞けば手取りが20万円程度で、そこから4.5万円の返済をしていたという。
思わず、
「よく払えたね・・・」
と感心してしまったが、
「ええ、何とか都合つけました。自分でやってしまったことなので」
そう胸を張る彼の態度は少々鼻についた。
しかし、ここで甘い顔をするわけにはいかない。
「大変なのは分かるけど、あと55万円、頑張るしかないよ。」
そう優しく諭し、こう結ぶ。
「私からは逃げられないし、絶対逃がさないから。」
コイツ、一体何者なんだ?相手の想像力を掻き立て、一気に押し切るしかない。
正義はこちらにあるものの、まるで取り立て屋のようだな。我ながらそう思った。
結局、今月から改めて4.5万円を返済することで了承させた。
その後、毎月、月末になると私がショートメールや電話で「今月は大丈夫ですか?」と確認。
入金が確認できると「よく頑張ったね!!あと〇回です!!」と褒める。
そんなことを繰り返す。
しかし、夏休みに金を使いすぎて返済をスキップしたり、身内の不幸で精神的に不安定になったB氏としばらく連絡が取れなくなったりと、苦労は絶えない。
悪い子ではないが、弱く、無知。そしてすぐ逃げる。
そんな印象だった。
そして先日、ようやく最後の入金があり、無事、全額を回収した。
2018年の12月から、丸1年の歳月が流れていた。
Aさんも事故以来のストレスが解消し、喜んでおられる様子。
まあ、とにかく良かった。
全てが終わり、何となくB氏に慰労の念と、そして別れを告げたくなった。
この1年。
妙な関係の中で、これまた妙な友情のようなものを覚えていたからだ。
手取り20万円。
妻子もいて、そこからの4.5万円の支払いは決して楽ではない。
もちろん自分でやったことの後始末ではあるが、
「逃げずに最後まで頑張ったね。」
そう言ってやりたかったのである。
ここ1年で何度かけたか分からない番号を鳴らす。
ところが・・・
「おかけになった電話番号は現在使われておりません。」
携帯解約してんのかよ!!
支払いが終わった途端、連絡先を変える。
一体どんなメンタリティなのか皆目見当がつかない。
結局のところ無保険で車に乗るような人間とは相容れないということだろう。
この種のトラブルのオチとして、これはこれで清々しい。
本日のコラムでした。
追伸:
今回のケースは被害者側が「悪い人」ではなく、たまたまコミュニケーションが上手くいったので回収できた事案です。通常は、泣き寝入りになることがほとんどです。
弊社ではこのような債権回収を業務として行っているわけではありませんので、無保険車に関するトラブルの相談(チャット、電話、メール等)はお受け出来ません。
何卒ご理解下さい。
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