「叱られない世代」の優しい残酷


ニュースにもなっていたので、目にした方も多いと思うが、元メジャーリーガーのイチロー氏が「叱られない若者」について語られていた。

女子高校生の野球選手への講義の一場面だったようだが、その主旨はこんな感じ。

・昔は監督やコーチが怖かったので、遊んでいるような選手でも練習を強制され「あるところ」まで引き上げられた

・だが今は時代が違う。誰も強いことを言わないので、自分で考えてやらないといけない

・これが酷。自分に厳しく、自分で上手くなるのは相当難しい

・結果、出来ない子はいつまで経っても上げてもらえない

もちろん、体罰やパワハラが横行していた時代を肯定しているわけではないが、現代は「優しい」分、全ては自分次第であり、当然、その結果も自己責任となる。

 

これはスポーツだけに限った話ではない。

先日、ある経営者とお話をしていた時にも、似たようなことを聞いた。

その方とは15年以上のお付き合いになるが、昔は社員への当たりも強く、〇〇ハラなど当たり前で、かなりビシバシやっていた。

が、最近では厳しいことを言うことはほとんどないそうだ。

「昔からホントに出来る奴は何も言わないでもどんどん出来るようになる。それは今も変わらない。だからそういうスタッフに注力して、大切に育てる。だが怒らないとダメな奴は周りから放置されるから、いつまで経ってもイマイチ。」

そうなると、給与も据え置かれるし(微々たる基本給UPはあっても)、仕事内容も誰でも出来る単調なものに限定される。

それでも多くの場合「それなりに満足している」ようだが、時に不満を口にする者もいるようで、そのような時は様々な数値で「あなたのダメさ」を説明するようにしているとのことだった。

実際、数字は嘘をつかない。

優秀な社員とそうでない社員の差は明確で、それを提示されるとぐうの音も出ないそうだ。

こんなことを聞いてみた。

「そういう方々は40代、50代になってどうなってしまうのですか?」

その経営者は少し悲しい表情をしながら、こう答えた。

「老人になるまで、安い給料で使われるんじゃないですかね。」

当然、一足飛びでここまで達観したわけではない。

だが、ある時期から「厳しい指導法」への風当たりが厳しくなり、社員の親が怒鳴り込んできたり、あからさまに能力不足(更に職務規定違反)で解雇した人間が「訴える!!」と凄んできたり、そんなトラブルが続き「考え方を180度変えた」そうだ。

わざわざリスクを取ってまで厳しいことを言う(言ってあげる)必要はない。

今、この瞬間、給与に見合ったことをやってくれれば良い。

残酷だが、そいつが将来どうなろうが知ったことじゃない。

 

幼稚園や保育園、小学校、中学、高校、大学、習い事、スポーツ。

全てのフェーズで「優しさ」にくるまれる。

自分で自分に負荷を与えて成長出来る人間は子供の頃からどんどん勝ち組となり、自分に甘い人間はどんどん負け組になる。

生まれてから社会に出るまでの22年。

毎年5%の成長(1.05)を22年続ければ1は2.95になるが、逆に5%の退化(0.95)を22年続ければ1は0.32になってしまうのだ。

結果、社会に出て、より表面的な「優しさ」で自分の時間と労働力が奪われていく。

昔が良いとは露ほども思わないが、今の風潮が良いとも全く思わない。

本日のコラムでした。

 

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11月 26th, 2023 by