いつかは来るだろうな
そう思っていたが、最近、それが現実になってきた。
法人の全損保険。
その「出口(解約)」に関する問題である。
昨年(2019年)、税制改正されるまでは、法人保険には主に
・1/2損金
・全損
の2種類の商品があった。
前者は保険料の50%を損金処理(残り50%は)出来るもので、商品によっても異なるものの解約時の返戻率のピークは早くて5年~10年程度で迎え、返戻率は概ね90%台後半まで伸びるものが多い(年齢によっても異なる)
対して、後者は保険料の100%全額を損金処理出来るため、「全額損金」略して「全損」と言われている。
こちらの返戻金のピークは7~10年目あたりに迎え、年齢が若ければ80%台中盤あたり、40代以上となると、80%近辺で止まる。
しかし、この両者には「ピークが続く期間」という点で大きな違いがある。
1/2損金の商品がピークを維持する期間が長いのに対し、全損商品はピークが一瞬しかないのである。
あくまで参考例だが、イメージとしては以下のような感じ。
12/損金は10年目で95.1%の「ピーク」を迎え、その状態がしばらくは続く。
対して、全損は10年目で83.5%の「ピーク」に到達したかと思えば、翌年にはすぐに低下し、年を追うごとにグングン下がってしまう。
山に例えれば、1/2損金は頂上部分がなだらかに続く「台形型」であり、全損は頂上だけがピーンと尖り、それを超えれば急降下してしまう「三角型」と言える。
台形型の1/2損金は「解約するタイミング」を長く取れるので、コントロールがしやすい。
10~15年目あたりに、
・業績が落ち込んだ(赤字の穴埋め)
・投資をする(投資資金の捻出)
・役員が退職する(退職金準備)
などに返戻金を使うことが出来る。
また、保険料の1/2を資産計上しているため、税の対象も
解約返戻金(95.1%) - 資産計上(50%) = 雑収入(45.1%)
となり、仮にここまでトータル1億円の保険料を払ってきたとすれば、解約時の雑収入は4,510万円ということになる。
大きな金額ではあるものの、先に挙げた3つのような用途であれば、雑収入を各支出と相殺することも可能。
対して、全損。
こちらは10年目、11年目あたりに「ほぼ強制的に」解約しないといけない。
12年目を過ぎると、どんどん返戻率が下がってしまうからだ。
この点、コントロールが効かない。
更には、全損は
「返戻金が全額、雑収入となる」
となる。
そもそも「損金で落とす」ということは、法人からすれば「無くなったお金」のはずで、保険の返戻金は帳簿のどこにも載っていない「簿外資産」である。
全損の解約返戻金は、一度死んだはずの人間(全損保険料)が蘇ったゾンビのようなもので、分類のしようがなく「雑収入」となるのである。
当然、全額、法人税が課税される。
この時に、この雑収入とあてられる(相殺出来る)ようなイベントがあれば良いのだが、いかんせん時期が限定されているので、そうそううまくいかない。
そうなると、雑収入の全額に法人税が課税されてしまう。
仮に年間1,000万円を10年間支払っていたとすると、
1,000万円 ✕ 10年間 = 計1億円
の保険料のうち、83.5%、約8,350万円が戻ってくる。
そして、戻ってきた8,350万円に法人税(ここでは30%とする)が課せられれば、
8,350万円 ✕ 30% =2,505万円
を納めることとなり、結果、手残りは
8,350万円 ー 2,505万円 = 5,845万円
となる。
保険会社に16.5%を「抜かれ」、更に法人税を取られるということ。
であるならば、当初から保険などには入らずに、毎期、法人税を納めておいた方が良い。
30%課税されたとしても、10年間のトータルでは、
法人税3,000万円、手残り7,000万円
となり、法人に残るお金はこちらの方が多いからだ。
もちろん、これらは結果論であり、保険に入る時点では予測が出来ない。
目の前の納税よりは、とりあえず節税
それが多くの経営者の本音であり、そのような時に「保険料の全額が損金で」というオファーは魅力的にうつるだろうし、その気持ちは痛いほど分かる。
しかし、この「出口戦略」をしっかりと考えないと、先程の説明の通り「やらない方が良かった」ということになりかねない。
これが全損の厄介なところである。
ちなみに、この全損が猛威を振るい始めたのが、今から8年前の2012年頃。
それまでは一部の外資系生保がこっそりとやっていた全損商品に、国内大手生保が参入し、
「猫も杓子も全損ワッショイ!!」
の「全損祭り」が始まってしまった。
そんな状態が6年以上続き、業を煮やした国税庁による税制改正(2019年)を経て、祭は終宴に追い込まれる。
言わば全損は、生保業界が産んだ鬼の子とも言えるのだが、それらが成長し、立派なオトナ(ピーク)になるのが・・・
もうそろそろ
なのである。
2020年から2025年くらいにピークを迎えるものが多いだろう。
そのため、
「いやー、あの時は全損で嬉しかったんだけど、返戻金がすごいことになっちゃててさ。どうしよう、これ?」
最近、そんな相談を受けることが増えた。
もちろん、自分で販売した保険ではなく、付き合いのある銀行経由などで入っている方が多い。
せめてピークを迎える、3,4年前くらいから計画できれば、
・一部解約して、複数年に渡って処理していく
・他の保険商品に乗せ換える
というようなことも出来るのだが、今年、来年の話では打つ手はなく、そのことを告げると
「何だよ!!結局、儲けたのは利ざや抜いた保険業界だけじゃねーか!!」
そんな厳しい声を頂戴する。
別に私が売った保険ではないのだが・・・・
注:私が全損を販売する時には、このようなリスクを説明し、出口戦略に関しては、かなり綿密に打ち合わせしている。
入り口甘いが、出口は激辛
一時期隆盛を極めた全損商品は、契約者、保険業界、双方にそんな教訓を与えただけなのかもしれない。
本日のコラムでした。
本件と同様のケースでお悩みの方、一緒に解決策を考えますので、ご連絡下さい。
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