金本位制の歴史から紐解くBRICS新通貨の行方


最近、ネット界隈で話題になっているのが・・・・

BRICSを主体とした新通貨発行

だ。

8月22日から24日にかけて開かれるBRICS+という国際会議の場で公表されるそうだが、正直なところその実態は良くわからない。

ただ一つ明確になっていることは、再び「金本位制」を導入するということだけ。

私も含め、ほとんどの人は金本位制など教科書の中の話でしか知らないが、今回の話を理解する意味でも「金本位制とはなんぞや?」というところから説明を始めてみたい。

正直なところ私も手探りで書いているので、誤っている点がればご指摘頂ければ幸いだ。

金本位制は1816年の英国で始まる。

当時のイギリスと言えば世界中に植民地を持ったイケイケの時代。(ちなみに日本はまだ11代徳川家斉のころ。ペリー来航が1853年なので、その37年前。)

自国の通貨「ポンド」を世界で最も強い通貨、今で言う基軸通貨にするために金本位制は導入された。

それ以前の通貨は、言わば「自然発生的」なものであり、それぞれの国がその価値を担保してはいたものの、それは自国内だけの話。

地域限定の金本位制はそれまでにも存在したが、あくまでローカルエリアであり、国をまたぐ「貿易(通貨交換)」となると、しっかりとしたルールがなく、混沌としていた。

そんな中、当時の王者イギリスが

「うちの通貨は金をバックにしている。いつでも3ポンド17シリング10ペンスと、金1オンス(約28.35g)を交換する!!」

と宣言したものだから「そりゃ信用出来る!!」と、この制度を全世界が受け入れたのである。

以後、ポンドが基軸通貨となり、各国も金本位制を導入。

日本でも1897年に日清戦争でロシアから得た賠償金を元に(このお金で金を大量に買って)金本位制をスタートさせている。

だが、金本位制には根本的な問題がある。

それは

持っている金の量の分しか通貨を発行出来ない

ということ。

そうなると、経済が好調で「沢山の通貨が必要だ!!」という国は、他の国から金を輸入しないといけない。

そして、ここで1914年に第一次世界大戦が勃発。

当時、武器はアメリカ製が最高水準で、イギリスを含むヨーロッパ各国が大量にアメリカから武器を購入していた。

アメリカとしてもヨーロッパから金(通貨発行の権利)を得るチャンスなので、バンバン武器を売っていたが、そうなるとヨーロッパからアメリカに金が流出してしまう。

つまり自国の通貨の発行量が減ってしまう。

そこで、イギリスが「金輸出禁止」を宣言するのだが、周りの国からしたらこんな手前勝手な話はない。

「お前(イギリス)が金本位制って言ったのに、自分からそれを破るんかい!!」

だが、その頃の世界のリーダーはイギリスだったので、あのアメリカですらイギリスの言うことを聞かないわけにはいかなったのだろう。(今では考えられないが)

ここで重要なのは2つ。

1 金本位制は通貨の「価値」を金で裏付けるため、非常に分かりやすく、かつフェアである

2 しかし、戦争などの緊急事態が発生すると、各国の思惑で「金の移動禁止(輸出入禁止)」が発生するので、制度そのものが成立しなくなる

つまり、平時には良いが、緊急事態が発生すると、それを吸収するだけの柔軟性がないということだ。

しかし、1の「分かりやすい、フェア」という点は非常に魅力的であり、そのため第一次世界大戦後には早々に各国が金本位制に復活している。

が、再び危機。

1929年、世界恐慌。

混乱した自国の経済を鎮めるためには、金本位制にこだわっているわけにはいかず、各国は再び「金輸出入禁止」となる。

これで完全に終わったか?と思われた金本位制だが、意外としぶとい。

第二次世界大戦で世界中が大混乱していた1944年7月に開催された連合国通貨金融会議。

奇しくも1944年7月には日本の重要拠点であるサイパンが陥落。

日本本土のほとんどがB-29の攻撃範囲となってしまい、敗戦濃厚となっていた。

日独伊 vs 連合国の戦いも山場を超えていたこの頃、勝利側の連合国のお偉いさんが集まって「戦後の世界経済」について話し合ったのがこの会議だ。

アメリカのブレトン・ウッズという街で開かれたことから、ここでの合意を「ブレトン・ウッズ体制」と言う。

教科書で聞いたことがある人も多いだろう。(ちなみにお恥ずかしながら私は、どこかの財務大臣の名前だと思っていた・・・)

もうこの頃には世界の覇権は完全にアメリカに移っていた。

また、金の保有量もアメリカがダントツ。

そこで金本位制の亜流のような「金為替本位制」が採用される。

その内容は「ドルを唯一の基軸通貨とする」、「金1オンス=35ドルとする」、「ドル以外の通貨は対ドルでレートを固定する」というもの。

ドルだけが金本位制であり、その他の通貨は決まったレートでドルと交換出来る(関節的に金とも交換可能)ことから「ほぼ金本位制だよね」ということで、金為替本位制と言われる。

完全にドルの独走状態であり、いかに当時のアメリカが絶対的な存在だったのかが分かる。

注:ソ連などはこの体制に入らず、冷戦に突入する。

そして1971年。ベトナム戦争で疲弊したアメリカ経済はブレトン・ウッズ体制を維持できなくなり、当時の大統領のニクソンが「金・ドル交換停止」を宣言。

これがニクソン・ショックだ。

これにより金本位制は完全に終焉を迎える。

歴史を俯瞰して見ると、その時々の絶対王者が、自国通貨を基軸通貨にするために「金本位制」を利用し、その地位の凋落によって、金本位制を維持できなくなるということが繰り返されている。

で、前置きが長くなったが、BRICSの共通通貨。

噂レベルではあるが、純粋な金本位制ではなく、

「保有している金の◯倍まで通貨を発行出来る」

というようなオプションが付いた「准金本位制」らしい。

なるほど・・・

しかし、個人的には

上手くいくわけがない・・・・

それが率直な感想だ。

BRICSはブラジル、ロシア、インド、中国、南アフリカの5カ国だが、このメンツだけを見ても、何かを一緒にやれるようなメンバーではない。

1泊2日の温泉旅行ですら帰りには殴り合いの喧嘩になっているだろう。

新通貨の発行?

金本位制?

とてもとても・・・

歴史を紐解けば、金本位制を納得させるには、経済、軍事の両面で圧倒的な存在感が必要であり、寄せ集め連中でやれるようなものではない。

アメリカにも問題は多いが、というより問題だらけだが、それでも今のアメリカを「飲み込める」ほどの国は世界中に存在しない。

ドルの牙城を本気で崩すなら、BRICSはアメリカとの戦争も覚悟しないといけないし、ロシア、中国は別として、インド、ブラジルにそんな覚悟があるのだろうか?

別に好きではないが「やっぱりまだドルかなぁ」という気がしている。

本日のコラムでした。

 

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8月 16th, 2023 by