仕組債と私の因縁


仕組債というものがある。

これにはちょっとした因縁がある。

通常の債券なら、償還〇年、利率〇%とシンプルだが、仕組債にはこれ以外に「条件」が付けられる。

株価に連動するようなものであれば「日経平均がいくら以上、もしくはいくら以下になったら」とか、ある外貨を対象にしたものであれば「1通貨単位が対円ででいくら以上、いくら以下になったら」などなど。

これらに連動し、仕組債にはノックイン、ノックアウトという制度がある。

例えば「いくら以下になったら」という条件に該当した場合には、ノックインとなり、その時点でこの仕組債は償還され終了となる。

下がっている時に終えるわけだから当然損をする。

対して「いくら以上になったら」という場合にはノックアウト。

その瞬間に利益確定をして終了。

こちらは儲かる。

これが仕組債の概略なのだが、その裏では様々なデリバティブ(金融派生商品)のオプション取引が動いており、実際の商品には割と理解しやすいものから「なんじゃこれ?」というほど複雑なものまであり、玉石混交という感じだ。

元々は運用のプロである投資家向けの商品だったのだが、ここ最近では銀行の窓口などで「素人」相手にバンバン売られている。いや売られていた、という方が正しいか・・・

地銀系証券が「仕組み債」の販売停止で陥った苦境

こちらの記事にある通り、ちょっと前までは地銀が作った子会社証券会社が仕組債を組成し、それを本体の銀行が売りまくるというビジネスモデルが「流行って」いて、正直

随分危ない商売をしているな・・・

と思っていた。

私のところにも

「母親と仲の良い銀行員からこんな提案がされているのですが、これはどんな商品なのでしょうか?契約しても良いものですか?」

というような相談が随分きていた。

5,6年くらい前からだろうが。

流れはこうだ。

「いつもお世話になっている地銀の銀行員」、「若くのによく頑張っている」、「忙しいのに世間話に付き合ってくれる」という奴が登場し、おばあちゃん、おじいちゃんに「凄い良い商品がある」と仕組債を紹介する。

当人は「よく分からないけど、いつもお世話になってるし」という理由で契約に前向きで、しかもそういうおばあちゃんやおじいちゃんはビックリするくらいの資産を持っていたりするので、1,000万円、2,000万円の単位で預けようとする。

それに対して、息子さんや娘さんが「ちょっと待った!!」をかけるという構図だ。

ある地方にあるおばあちゃんがいらっしゃった。

弊社の既契約者のお母様で、私自身は面識はないが、先ほどの流れでお子さんから私に、その地方の地銀の銀行員Aが提案した内容が転送されてきた。

内容分析の依頼だ。

見ると仕組債の中でもかなり複雑なもので、正直、私も全容を理解するのに小一時間かかったほど。

ある外資系証券が主導して作ったもので、基本的には外貨ものなのだが、一部は株式にも回るとか、確かそんな内容だった。

そして驚きの投資金額は5,000万円。

元々地主のお家柄だそうで、総資産はうん十億円もあるとのことだった。

「やめた方が良いですね。複雑過ぎるしノックインの条件に該当したら大損ですよ。高齢者にラーメン二郎食わすようなもんです。」

端的にそう説明した。

だが結局契約された。

「Aさんも頑張っているので、少しだけでも応援してあげたい」

そんなことをおっしゃっていたそうだ。

銀行員が頑張るのは当たり前だし、5,000万円は「少し」ではない。

息子さんは散々止めたのだが、遠くの息子より近くの銀行員ということだろう。

で半年もたたずノックイン。

投資した通貨が暴落し、結局、5,000万円が3,000万円になってしまった。

だがその時には担当Aは「頑張って」東京の別の金融機関に転職。

息子さんが銀行に怒鳴り込んだが、

「あれはうちの商品ではなく、証券会社のもの。責任は負えない」

「リスクは散々ご説明差し上げた」

「ご理解頂いている旨の承諾書にもサインをされている」

などと言われ成す術がなかった。

また不幸なことに、同時期にお母様が認知症を発症し、ご本人の証言もあやふやになってしまう。

恐らく半年前にもその兆候はあったはずで、近くにいた銀行員も気付いていたはず。

そうなるとこの行為は詐欺としか言いようがない。

「でも、ある意味では認知症になって良かったですよ。信頼していた若い子に『騙された』と知ったらショックだったでしょうから」

息子さんはそうおっしゃっていた。

このようなことが、日本全国で掃いて捨てるほどあった。

当然、消費者センターなどには苦情が殺到。

金融庁も重い腰を上げ、昨年6月に「銀行の仕事は仕組債の販売ではない!!」と厳しく断罪。

ビビった地銀各社は即時に仕組債の販売停止を決め、その影響で子会社の証券会社に赤字が連発している。(これが先ほどの記事の中身)

もちろん似たような話は保険業界にもある。

複雑な商品を銀行の窓口で販売し、トラブルになっているケースも少なくない。

金融リテラシーの低い老人を騙し、訳の分からない商品に投資をさせ、損をさせる。

一体我々は何をしているのだろうか?

ところでくだんのA。

転職した先は外資系の保険会社とのこと。

ノックインしてから数か月後に、お母様のところにシレっと連絡があったそうだ。

当然、息子さんが激怒し、それ以来電話はかかってこないそうだが、その会社とは弊社も付き合いがある。

その会社の人間にはAの詐欺行為を散々吹聴しておいた。

クックックック

これからもすかしっ屁のように影日向に足を引っ張ってやりたいと決意している。

本日のコラムでした。

 

この記事が気に入ったら
いいね!しよう

最新情報をお届けします


8月 4th, 2023 by