そりゃ俺がジャニーズの社長だって事業承継税制使うよ


「事業承継税制」がここまでフォーカスされるとは思ってもみなかった。

ジャニーズの話。

先日の会見で、ジュリー景子氏が代表取締役に留まることに多くの批判が集まっていたが、当初、その理由は

「株主兼代表取締役の自分が賠償問題にあたるのが最もスムーズであるため」

と説明されていた。

しかし、週刊文春によって、同社は事業承継税制を利用しているため、相続税を逃れるために

「5年間は代表取締役を続けないといけない」

とすっぱ抜かれてしまったのである。

賠償問題を進めるという「表の理由」、事業承継税制の条件達成という「裏の理由」

賠償問題の方は株主として「会社の資産を使って好きにやってください」と許可をすれば良いだけで、仮に自分の手でやりたいのであれば代取の座は東山氏に譲り、自身は取締役にでも「降格」してやれば良いし、その方が世間受けは良いだろう。

そうなると、やはり真の目的は事業承継ろうな、ということになる。

これに対しても世間はかなり厳しい目を向けているようだが、私のように中堅中小企業を相手にしている立場からすると

「まあ、しょうがないよね・・・・」

という気もしている。

と言うのも、企業の経営を引き継ぐ「事業承継」というものは本当に一筋縄ではいかないからだ。

カリスマ創業者の後を継ぐ。

もうこれは本当に大変なことだ。

特に人。

先代を支えた古い幹部たちをコントロールすることは並大抵のことではなく、私自身が過去に見てきた事例(代替りの実例)で言えば、ほとんどのケースでそれらの古参たちを「切る」という決断をしなくてはいけない。

口で言うのは簡単だが、自分自身にとっても小さな頃から世話になってきた叔父や叔母のような古参社員に引導を渡すのは相当な胆力がいる。

またそれら古参たちにとっても、先代から与えられた特権を取り上げられることには強い抵抗があり、それで会社が真っ二つに割れてガタガタになるようなことも少なくないのだ。

あくまで個人的な感想だが、ジュリー景子氏の会見を見た限り

「苦労知らずの二代目お嬢さん」

という感じで、感極まって涙を流している姿などを見ると、悪い人ではないように思う。
(会見後、すぐにハワイに羽を伸ばして行ったそうだが、そのあたりも二代目っぽい 笑)

その反面、切った張ったが出来るようなタイプでもないだろう。

その点、ジャニーズにおけるジュリー氏は「お飾りなんだろうな」とも思う。

そんな本人が事業承継制度の詳細などを理解しているわけもなく、相続時にも社内の財務担当役員、社外の税理士、弁護士あたりが作った「ストーリー」に乗っただけだけで、今回も

「代取降りたら相続税発生しちゃいます!!何とか代取のままでいられる言い訳が必要です!!」

という感じで「賠償問題のため」という理由が採用されたのだと思う。

だが、これ企業防衛としては当然の判断だ。

ジュリー景子氏の相続税がどの程度かは分からないが、一説によるとジャニーズの総資産は1000億円とも言われている。

総資産1000億円企業の全ての株式を保有しているわけだが、株式の場合、相続上の評価は総資産の6割程度になることが多いので(ジャニーズの場合、類似業種比準方式というものを使って計算する)、相続評価額が600億円、相続税の最高税率55%が適用され相続税は330億円。

ざっと総資産1000億円のうち1/3を国に取られてしまう計算だ。

今後、被害者への賠償金も発生する。

強姦の賠償金の相場は100万円前後らしいが、今回はことがことだけに「相場で」というわけにもいかないだろう。

仮に500万円だとして、100人で5億円、200人で10億円。

だが、これ自体は会社の規模からすれば大したことはない。

より深刻なのは所属タレントの離脱、スポンサー離れで、今後数年間は売上が急減するだろうし、そして、それが復活する見込みも薄い。

そこに来て300億円を超える課税。

これは相当痛い。

ジャニーズにおける「相続」は社長個人が苦しむわけでなく、会社全体が苦しむことになるため、事業承継制度の維持は企業としての死活問題なのだ。

今回の「危機」はジュリー氏の能力によるものでもなく、先代の悪質な犯罪のせいではあるが、良くも悪くも個性の強い初代から次代にバトンタッチするタイミングで、今まで先送りしてきた問題が勃発し、それが原因で急激に財務が悪化することは事業承継にはよくある話だ。

やはり中小企業の経営は「人」に依存している分、その人が変わる事業承継は難しい。

そのため「せめて株式の税金は猶予しましょう」というのが事業承継制度なのだが、今回はこれが時限爆弾のようになってしまった。

賠償の詳細、そしてジュリー氏の株については、来月、再び会見が開かれるそうだが、まさか「相続税が嫌だから代取を続けさせて下さい」と言うわけにもいかず、かと言って代取を下ろして相続税を払うわけにもいかず・・・

一部の株を手放すことで「茶を濁す」しかないような気もするが、新社長の東山氏がどのような着地をこころみるのか興味深い。

事業承継は本当に難しい。

今回の件はそれをまざまざと見せつけられる事例だと思う。

本日のコラムでした。

補足:2023年10月2日にて、補償終了後に廃業を決定。相続税も改めて払うとのこと。承継者として先代のやってきたことを全て受け止め、重大な決断をしたと思う。
同時に若い頃からパニック障害を発症していたことも告白されたが、今後も大変だと思うが、とにかくお大事にして欲しい。

 

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9月 24th, 2023 by