インフレが壊す我々の「パンパース」


物価高が止まらない。

日本においても、前年同月比の物価上昇率が2ヵ月連続で2%を超えた。

奇しくも日銀が長年目標にしてきた「2%」をあっさり超えたのだが、これが戦争によるエネルギー上昇と、そこに円安が追い打ちをかけた「外的要因」であることから「悪い物価上昇」なのだそうで、引き続き日銀は低金利政策を継続し、政府もガソリンへの補助金、更には小麦などの日常生活品に関しても、何かしらの「援助」を検討しているそうだ。

ふと不思議に思う。

ずっと2%を目指してきて、それが達成できたのだから、それで良いではないか?と。

もちろん言っていることは分かる。

本来の「良い物価上昇」は、まず給与が上がり、皆が増えた分を使う、それにより緩やかに色々な物価が上がっていく。と言うことなのだろう。

反面、現在の物価上昇は、給与は上がらず、物価だけ上がっている「スタグフレーション」というやつで、庶民からすればたまらない。

そんな状況の中、日銀 黒田総裁の

「家計は値上げを許容している」

という発言が大炎上した。

一国の中央銀行のトップが「あれは不適切でした」とペコペコと頭を下げる姿は滑稽ですらあったが、実態としては「その通りなのにな」とも思う。

日本人は金を貯めすぎている

常々指摘されていることだが、ここ数年、企業、個人の「貯蓄額」は右肩上がりで伸びている。

企業の内部留保は9年連続で過去最高を更新しており、2010年時点で300兆円程度だったものが、2021年には484兆円まで増えた。

家計の平均貯蓄額も1世帯あたり過去最多の1,880万円。

こちらも2012年には1,658万円だったので、10年で200万円以上増加していることになる。

日銀総裁という立場で、これらの統計やデータばかり見ていれば、

「多少値上がりしたところで大丈夫」

そう思ってしまうのだろう。

「お金をばら撒けばインフレが起こる」というのは、「ダムから放流すれば川の水位が上がり、堤防が決壊する」というのと同じくらい「当然のこと」である。

事実、コロナで金をばら撒いたアメリカは深刻なインフレに見舞われているが、当たり前のことが当たり前に起こるという点においては、実に健全と言える。

一方の日本。コロナ前からどれだけ放流しても、不思議なくらい何も起こらなかった。

これは先で述べたように、企業、家庭が流れてきた水を「自家製ダム」で貯めているためであり、日銀からすれば「どんだけ吸い取るんだよ・・・パンパースか・・・」と突っ込みたくなるだろう。

そして、今回のインフレがこの「パンパース」を刺激している。

そこから「多少の水漏れ」が起こっている、というのが実状であり、黒田総裁もそう思っていいるからこその「許容」発言だったのだろう。

しかし、先の数字はあくまで「全体」や「平均」であって、当然ながらその中には濃淡がある。

このような資産状況に関する統計では「上位2割が、全体の8割を占める」という傾向があるので、先の企業の内部留保でも、家庭の平均貯蓄額でも、おそらくは上の2割が全体の8割を保有しているはず。(2:8まででなくても3:7くらい)

つまり8割は「平均以下」なのだ。

黒田総裁の発言は、この8割を敵に回すことになる。

統計の分析は得意だが、人の気持ちには疎い。そりゃ炎上しても仕方がない。

さて、ここからごくごく個人的な話に移りたい。

私自身は、今回のインフレ。悪性であれ良性であれ「非常に良いこと」だと思っている。

当座は辛いかもしれないが、長い目で見た時には日本経済にプラスになるのでは?

そう考えている。

と言うのも、最近お客様から、

「持っているお金をどうしたら良いか?」

という相談が相次いでいる。

感覚的には週に1,2はこのような話が来る。

皆、お金の価値が下がるインフレを怖がっているのだ。

パンパンに膨れたパンパースの中身が目減りする前に何か対処をしたい。

これに対し、正攻法は

・目先の多少の値下がりを覚悟してでも株式に投資する

・まとまった資金があるなら、固定金利でローンを組み不動産を買う
注:変動だとこれからは金利が急騰するリスクもあるので、ちょっと怖い

というあたりだが、それが出来るなら既にやっているはず。

なかなか決断が出来ないからこそ、私のところに相談に来ているわけで、こんな正論を話したところで仕方がない。

こんな時、

「欲しい物を買って、行きたいところへ行って下さい。値上がりする前に」

この一言が非常に「刺さる」

すると、車、時計、服そして、海外のここに行きたい、などなど、欲しいもの、やりたいことが、次々と挙げられる。

皆、我慢してお金貯めてたんだな。そう思う。

バブル以下の世代は、人生で初めてのインフレをこれから経験しようとしている。

10万円の物が、来年待てば7万円に、再来年まで待てば5万円に「下がる」時代が終わり、今買わねば来年には13万円に、再来年には15万円に「上がる」時代が来る。

金だって腐る。腐る前に食べろ!!

既にほとんどの人がそのことを肌感覚で感じているのではないか。

各企業、各家庭が後生大事に抱えてきたパンパース。

それを自ら絞り、そこから滴り落ちた水が物や体験に形を変え、人生を豊かにする。

「お金って本来そういうもんだよな・・・」

そんな当たり前のこと。

今回のインフレは、我々にそのことを気付かせてくれる福音になるかもしれない。

本日のコラムでした。

 

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6月 26th, 2022 by