意外と知らない「国民年金」のリアル


国民年金の支払い期間が60歳から65歳までに延長されるらしい。

これを受け、マスコミでは

「60歳から65歳まで5年で100万円の負担増!!」

「令和の大改悪!!」

と、かなりネガティブに報じている印象だが、一応、年金に詳しいFP(ファイナンシャルプランナー)の立場からすれば、

しょうがないよね・・・

というのが正直な感想。

そもそも会社員が加入している厚生年金では、雇用が継続する限り保険料を負担する。(最長70歳まで)

我々の世代(40代)であれば65歳までは支払うことになるだろう。

対して国民年金は60歳までだが、現状、ほとんどの人が65歳程度まで働くことを考えれば、それに伴った「延長」は至極当然でもある。

だが、この話。

そんな簡単なことでもない。

「国民年金」という年金制度には根本的な問題があるからだ。

本日はそのあたりを掘り下げてみたい。

まず、国民年金には、第一号から第三号まで3つのカテゴリーがある。

第一号が個人事業主や学生、第二号が会社員でこちらは厚生年金(もしくは共済組合)の加入者と等しい。そして第三号が第二号の配偶者。つまり専業主婦である(パートなどを含む)

その数は全体で6,740万人(令和2年時点)

なお、内訳は、第一号が1,449万人、第二号が4,498万人、第三号が793万人となっているのだが、更に第一号1,449万人の中身を細かく見てみると、

・法定免除・全額免除 374万人

・支払猶予(学生など)  235万人

・未納者       115万人

とあり、実際に保険料を支払っているのは726万人と全体の1/2程度であることが分かる。

今回の改正はこの726万人に関係している。

次に国民年金の保険料と年金額を見てみたい。

令和4年で保険料は毎月16,590円。

対して受け取れる国民年金は満額で77万7,800円/年(令和4年)

保険料も年金額も変動するので、あくまで「現時点での数字」だけを引用して計算してみよう。

仮に保険料を45年負担すると、支払総額は約896万円。

年金は77万7,800円だから、単純な割り算で11年6ヶ月(76歳まで)受け取れればトントンということになる。

以後はプラス。

男性の平均寿命の82歳まで生きれば+426万円(総額1,322万円)、90歳で+1,048万円(総額1,944万円)、100歳まで長生きすれば+1,826万円(総額2,722万円)になる計算。

第一号被保険者が、退職金などが期待出来ない個人事業主であることを考えれば、国民年金は「老後の備え」として重要なものであろう。

だが、この国民年金の財政は相当厳しい

もちろん年金制度全体の財政が良くないのだが、特に国民年金が悪い。

その理由が徴収率。

給与から強制的に取られる厚生年金と異なり、国民年金は自ら払い込む必要がある。

ほとんどの方が口座振替やクレジットカード払いにしているが、滞納率も高く、事実、先に述べたように、第一号被保険者1,449万人から、免除や猶予を除いた850万人のうち、約13%の110万人が未納者となっている。

但し、この未納者については「払っていない。だから年金も払わない」ため、財政にはそこまでの影響はない。

また、支払いを猶予されている大学生なども、その多くは数年後に第二号被保険者(会社員)になるため関係ない。

だが、法定免除や全額免除の374万人と、第二号の配偶者である第三号の793万人は、かなり少ない納付(もしくはゼロ)で、年金を受け取ることになるので、それが収支に影響していると言われている。

端的に言えば、負担者763万人に対して、国民年金給付の予定者1930万人(負担者+免除者+第三号)という状態。

「貰う人」のうち「払う人」が約4割程度しかおらず、極めて不均衡なのである。

なお、これをもって免除者や第三号被保険者を非難するような人がいるが、それもお門違い。

このアンバランスはあくまで制度の責任であって、個々人の責ではないし、特に免除者についいては、健康状態など深刻な理由がある場合が多く、しっかりと護らないといけないだろう。

話を元に戻す。

この「アンバランス」のしわ寄せは、保険料にも現れている。

下記は、1990年から現在までの保険料をピックアップしたものだ。

1990年から比較すれば「ほぼ倍」

この30年間、給与は上がっていないのに、保険料だけは増えていることになり、自分の身一つで生計を立てている個人事業主からすれば、この負担は軽くないだろう。

今回の改正は、そんな「きちんと国民年金を支払っている人(払う人)」に対して、

あと5年!!お願いしやす!!

ということなのだが、冒頭でも述べた通り、既に厚生年金では実施されているので、そこにあわせたということなのだろう。

だが、その前にやるべきことがあるのではないか?

先に述べた第三号も、いわゆる「130万円の壁(年収130万円以下であれば厚生年金に入らないて良い)」が、女性の社会進出の阻害要因になっていると指摘されているし、未納者についても、その多くが老後困窮するため「生活保護予備軍を放置している」ことが問題視されている。

このような抜本的なところに手を付けず、まずは取れるところから取るという、いつもながらの小手先感には毎度辟易としてしまう・・・

厚生年金加入者の会社員は散々この手口でやられているが、いよいよ個人事業主にもその手が伸びたということで、これも含めて

しょうがないよね・・・

と呟くしかない。

本日のコラムでした。

 

 

 

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10月 19th, 2022 by