ビックモーターという「パンドラ」


ビックモーターの一件が大騒ぎになっている。

報道されている内容では、修理のために預かった車を「故意」に破損をさせ、その分の修理費用も上乗せし保険会社に請求していたとのこと。

また、その際に使用するパーツも顧客や保険会社には「新品だ」と報告しながら、裏では中古品を使用してコストを浮かせていたそうだ。

ここまで来ると「不正」と言うより「詐欺」という方が正確だろう。

但し、これ保険業界の人間からすると、

何を今更・・・

という話でもある。

正直なところ、保険を使った自動車の修理では、この手の不正(詐欺)は日常茶飯事。

もちろん、しっかりとルールを守って修理・整備を行っているところも沢山あるが、そうでないところも沢山ある。

また、車の所有者も

「事故で直すついでに、こっち(事故とは関係のない過去の傷など)も直したい」

というようなことを言い、工場もグルになって一緒に請求してしまうようなケースも多い。

そのため、この手の不正には損害保険会社側も目を光らせていて、まず悪質な整備工場はリスト化されているし、また、請求におかしいところがあると「アジャスター」と呼ばれる調査員が現地を訪れ、プロの目で鑑定を行うようになっている。

で、ビックモーターだが、業界内の話を聞くとアジャスターがほとんど入っていなかったようだ。

理由は2つある。(と推測する)

1 そこまで大きな修理費ではない

2 ビックモーター自身が有力代理店である

1について、報道では修理のノルマは「アット」という隠語で呼ばれ、その金額は1台ごとに14万円。

つまり、修理を行うことでビックモーター側に14万円の利益を生めばノルマ達成ということなのだが、これはさほどの金額でもない。

例えば45万円の修理を行い、30%程度の利益があれば14万円程度にはなる。

もしくは、完全に不正をするなら、本来5万円で済む修理に、新しい傷を付け、その分の修理費用として丸々14万円を乗せるだけでクリア出来る。

保険会社からすれば、45万円や19万円の事故は「小さい金額」の部類なので、どうしてもチェックが甘くなってしまう。

そのため、現地調査まで行うことはほとんどない。

ちなみに、私自身の感覚で言えば「100万円超えるとアジャスターかな?」という感じだ。

ただ、ここまで数が多いと、恐らく現場の支払部門は何かしら気付いていたのではないか?

昨今では不正請求をAIでチェックするシステムも導入されており、それらは請求者の「クセ」を見抜く。

ビックモーター内でも不正請求の手口がノウハウ化されていたようだが、所詮、人間が考えたやり方などではAIの眼は誤魔化せないはずだ。

では何故、これまで事実が露見しなかったのか?

それが2「ビックモーター自身が有力代理店だから」ということ。

あの規模になれば、ほぼ全ての損害保険会社と代理店契約をしており、中古車販売時に自動車保険をセットで売る。

その量は膨大だ。

そのため、仮に損害保険会社A社が「不正では?」と疑った場合、

ああ、そういう態度ですか?ではAさんとはもうお付き合い出来ないですね。

などと恫喝されれば、A社の営業部門はビビって何も言えない。

また、ビックモーターに対して、A社、B社、C社、D社がそれぞれ熾烈なシェア争いを繰り広げていたのだろうから難癖を付けた段階でその会社は終わりだ。

なお、損害保険会社内では、営業部門と支払査定部門には「高い壁」が設けられており、営業部門が支払査定に口を出すことは出来ない。

だが、これはあくまで「建前」であって、同じ会社である以上、根っこは同じ。

阿吽の呼吸もあるだろう。

支払査定部門としても、1件1件の数字は小さいし、下手に手を出して営業部門から怒鳴り込まれても面倒だし、ということで手を出しにくくなっていたのでは?と推測する。

この点、損害保険会社側にも自浄作用がない。

いずれにせよ、今回の件は「故意に車を傷付ける」という点でかなり悪質であり、今後、同社はかなり厳しい立場に追い込まれると思われる。

また前述の通り、保険会社もある種の共犯のようなものであるため、その矛先を逸らす意味で、今後、自動車保険の請求はより一層厳しくなる。

今まで甘い汁を吸っていた中小の整備工場も締め付けられるだろう。

まさにこの一件が「パンドラの箱」を開けてしまった。

保険に携わる者として、請求にいちゃもんを付けれるのは個人的に一番嫌だ。

「何やってくれてんだよ!!ビックモーター!!このバカ!!」という感じである。

正直、存在価値はないと思っている。

本日のコラムでした。

 

 

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7月 20th, 2023 by